イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
郁人と動木さんとで結託し、眞島商事と常盤不動産の共同事業だったリゾート開発に、動木建設が食い込んだ。そのため会社同士の力関係が変わり、事業を盾に常盤不動産が強引に政略結婚を推し進めることが出来無くなった。
それどころか、郁人が眞島を継ぐことになった途端、融資や援助、を申し出る企業が増えた。彼がこれまで作り上げてきた人脈の成果だと、動木さんは言う。
半分くらいよくわからなかったけれど、そういうことらしい。
おまけに、常盤さんは動木建設のところの有望株と婚約を結びなおしたというから驚きだ。
「政略結婚を嫌がる奴もいれば、出世に貪欲で積極的な奴もいるってことだよ」
無理やりに婚約したのではないかと心配した私に、動木さんがそう説明してくれた。
「で、つまり、どういうことかわかるかな?」
「え?」
「おおよそ全部、片付いたってことだ。もうすぐ歩実ちゃんのとこに帰ってくるんじゃないかな?」
そう言われて、じわじわと頬が熱くなる。
期待に、落ち着いてはいられなくなった。
「え、いつ? 片付いたなら今日でも?」
「いや、それは無理だな。今西日本に行ってもらってるし」
「えっ! なんで」
「新リゾート開発地の検討と交渉」
えええ!
なんで!
「は、早く戻してくださいよ!」
「心配しなくてもそれが終わったら帰るつもりだろうけどね」
「えええええ……」
なんだかすぐに会えるような気持ちになりかけてたから、余計に遠ざかった気分だ。がっくりと項垂れる私をからかうように彼は笑う。
「いいなあ、若いって。ラブラブだし」
「……だって、一応、新婚ですから」
ぶすっと唇を尖らせた私の目の前に、ひら、と細長い紙が出て来て顔を上げた。
「歩実ちゃん、迎えに行ってくる?」
それは、新幹線のチケットだった。