イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
波の音と一緒に、潮の香が運ばれてくる。
ベンチから立ち上がって彼の方へ向き直ると、立ち止まっていた郁人が真直ぐ私に近づき、その両腕の中に浚った。

途端、はああと郁人の口から盛大なため息が零れる。

「クソほど忙しくて、キレそうだった」
「ちょ……郁人?」
「あのおっさん、人をこき使いやがって」
「動木さん?」
「他にいないだろう」

甘えるように私の頭に自分の顔を摺り寄せる彼に、くすりと笑った。
広い背中に、両手を回す。

「郁人。あの日の返事、聞いて」
「ん……?」

ちょっとだけ背伸びをすると、彼が気づいて少し腰を屈めてくれた。

「私も、愛してます」

波の音に、うっかりかき消されてしまわないように、ちゃんと届きますように、
耳元に唇を寄せ囁いた。

END


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