イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

そういうのに翻弄されたくないから、たとえ嫌われても最小限の付き合いしかしてこなかった。
叔父さん叔母さんに関しては、最初から受け入れてもらえるとは思ってなかったから、居心地の悪さは感じても後を引くほど辛いとも思えない。

……それなのに、どうしてあんなに動揺したんだろう。

郁人と結婚してから、社内で似合わないだのなんだのと陰口を叩かれた。考えてみれば、愛想が無いとか暗いとか鉄仮面とか(これは最近まで知らなかったが)そんな陰口には慣れっこだったのに、胸が痛くて仕方がなかった。郁人と並んで自分が見劣りすることは最初からわかっていたことなのに。
常盤さんと一緒にいるところを見た時も、そうだった。

あの時と今の違いは、と考えて、答えはすぐに出た。
中途半端に言葉を止めたままの私を、郁人が心配そうに見下ろす。その目がちゃんと、私を見てくれていると今は信じていられるから、平気でいられるんだ。

「そんなに心配しなくて大丈夫」

私に覆いかぶさる郁人の眉間に手を伸ばすと、そこに刻まれた皺を伸ばすように指で揉み解す。

「郁人がいてくれれば、他はどうでもいいみたい」
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