イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

 そういうことが苦手で上手くいかなくて、結果今までひとりで居たのに、妙なことになったものだと思う。しかも、断ろうと思わない自分のことも謎だ。
 交際期間結局ゼロ日、デート回数もゼロ、恋愛感情もゼロ。こんなゾロ目で結婚生活をスタートさせる夫婦があるだろうか。昔の、親同士が決めた結婚みたいだ。今時あり得ない。


 ただ、単調で平坦で、この先何年も変わることがないだろうと思っていた自分の毎日に変化が訪れたことに、ちょっと気持ちが唆された。いつか別れることになっても、これまでのハンコみたいな毎日よりもいいじゃないかと思ってしまった。


 婚姻届けに佐々木さんも記入し終え、証人の欄には私たちのお見合いを段取りした上司ふたりにお願いすることはすでに決まっている。あとは、私は休日の間に自分の荷物の梱包を解いてしまえば新生活の始まりだ。佐々木さんは、きっと今日も忙しいのだろうから書斎にでも籠るのか、出かけるのかと勝手に思っていた。


「もし、疲れてなければ、夕方に出かけようと思うんだが、どうする?」

「あ、はい。私は荷解きしてるので、気にしないでください」


そう返事をすると、佐々木さんが眉を寄せて変なものを見る目で見てくる。

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