イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
「今日のうちに周辺を案内しておく。買い物をするにも困るだろう」
「え。あ、私も一緒に、ってことですか」
「……でないと案内の意味がない。……要らないなら仕事をして」
「あ、い! 行きます! お願いします!」
勢いよく、口に出た。いつもの私なら、自由にひとりで散策する方が好きなのだけれど、どうしてかわからないけどこのチャンスを逃すな的な勢いで返事をしてしまった。
だって、仕事でも一切の無駄を許さない佐々木郁人が、妻とはいえ実質ただの同居人の私にそんな気遣いをしてくれるとは思いもよらず、これをスルーしては申し訳ない。
夕方、五時。日傘を差していこうかと思ったが、佐々木さんと一緒に歩くのにひとりだけ日傘はないかとやめておいた。
日中よりは少しやわらいだだろうか、それでもまだまだ明るいし、暑い。
「駅からの道を一本外れれば、スーパーがある。銀行のATMも揃ってるから」
「はい」
程よく便利な立地、駅や大通りから遠すぎず近すぎず。歩いていて、大きな公園を見つけた。生活しやすそうな地域だった。これで図書館でもあれば完璧だ、と携帯の地図アプリで調べようと思ったが、せっかく案内してくれているのだからと思い直した。