イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

 話が弾む、という空気でもない。ただ、静かな口調と落ち着いた低音が、私には話しやすい空気を作るのかもしれない。


「あ、あの、とにかく両親はすごく立派な人だとあれでも喜んでましたから。挨拶してくださってありがとうございました」

「いや、最初からその約束だった」

「佐々木さんのご家族には、いつ行かれますか」


 私の実家に挨拶しただけで、ばたばたと引っ越してきてしまったが、佐々木さんのご家族には会っていない。どうも、触れて欲しくないような空気はそこはかとなく感じていたが、聞かないわけにはいくまいと思った。


「俺はいい。挨拶しなければいけない家族はいない」

「え……」


 さっきまでは、物静かな中にも柔らかな雰囲気だった口調が一度に固くなった。


『家族がいない』


 どういうことだろう、もうご両親は亡くなられている、とか?
 詳しくを聞こうにも聞きづらい。何せ、私たちの結婚には互いのことには干渉しないという大前提がある。

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