イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
ちら、と横目で隣を見れば、元々打ち解けた私たちではないが、間にある壁の厚さが増した気がする。一センチくらい。
何か、あるんだろうな。それってこんな風に結婚をしたことと関係あるのかな。
干渉しない、という前提がなくても、触れられまいとしている事柄に敢えて触れようとは思わなかった。
「それなら楽でいいです。『妻』の役割が必要な時は言ってください」
誰にでも触れられたくないことはある。夫婦なら普通あり得ないと思われる事も、私たちは普通に当てはまらないのだから比べることでもない。
さらりと流してしまおう、と思ってそう答えたら、隣から返事がなかった。
「え……何か」
見ると、じっとこちらを凝視されていて、思わずたじろいでしまった。
なんでしょう、これは、もっと本当は突っこんで聞いて欲しかったとか、そういう? 佐々木郁人、まさかの構ってちゃん?
こっちは、あまりコミュニケーション慣れしていないから変に遠回しにされるよりストレートに言ってくれる方が助かるのだけど。言葉の通りにしか受け取れないから。