イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
 きっと、一気に赤くもなったのだろう、彼の目も見開かれて気まずい沈黙になる。それが余計に羞恥心を煽られて、どっと汗が噴き出した。


「す、すみません。慣れないもので……」


 私の歩く速度が遅くなってたのか、開きかけていた距離を小走りで縮めると恥ずかしいのを堪えて隣に並ぶ。できるだけ表情は引き締めたが赤い顔はもう隠しようもないだろう。


「同じ姓になるんだから、下の名前で呼ぶ方がいいだろう」

「ですね、わかってます」


 深い意味はないんだってもちろんわかってますよ!
 にしたって、前置きなく名前呼びされたら驚いても仕方ないと思う……と、そこまで考えてふと気づく。
 ……と、いうことは私も彼を下の名前で呼ばなければ、ということだろうか。


「俺のことも郁人でいい」


 案の定、さらりと高難易度な要求をされた。
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