イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

 なんとなく感じる周囲の視線は受け流し気づかないフリをして、パソコンを起動させる。


「いいですねえ、定時でおかえりですって」


 向かいからじっとりとした目で睨まれた。私はそれをスルーして、さっきの仕事の話を切り出す。


「河内さん、ちょっと後で廻したい仕事があるんだけど」
「なんですか? 自分が受けた仕事なら責任もって……」

「今手が回らなくて、郁……佐々木さんの仕事なんだけど」
「やります。手伝いますよもー」


 わかりやすいな、河内ゆかり。
 郁人の名前を出せば、これからも仕事をうまく回せるかもしれない。考えつつ、午後の業務の整理をしていると、また向かいから声がかけられた。


「あー、いいですねえ。珍しく佐々木さん定時ってことは一緒に帰るんですか?」
「え?」


まったく考えていなかったことだったので、驚いて顔を上げた。言われるまで、さっきの佐々木さんの言葉の意味を深く考えていなかったのだ。
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