イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活

やば、こける……!


咄嗟に、手が何かを掴もうとする。同時に、がしっと力強い手にしっかりと上半身を抱き留められる。私の手は、郁人の腕がちょうど触れてスーツの布地を握りしめていた。


「……ご、ごめんなさい」


酔ってこけそうになって、男の人に助けられるなんて初めてのことで。近い距離感に、急に体に緊張が走る。しっかりと自分の足で立って体勢を整えようとしたけれど、郁人の手がしっかりと私の肩を掴んだままだ。


「捻らなかったか?」


しかも、私の足首の心配までしてくれる。私の肩を掴んだまま足元を覗き込まれたとき、距離の近さをますます感じて、顔がじわじわと火照り始めた。


「あ、だ、だいじょうぶ」


すぐ目の前に、郁人の顔がある。間近で目が合って、やっと彼も気が付いたのだろう。

目を合わせたまま、数秒無反応かと思ったら。
ぱっ、と大げさなくらいに、手が離れた。

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