イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
お弁当を食べる場所は限られる。
郁人の分もお弁当を作った日は、最初はこそこそと隠れて渡していたけれど。
「別に気にする必要はないだろう」と、他人の目を気にするのを郁人が面倒くさがって、オフィスで一緒に食べるようになった。
彼があまりにも堂々としているので、私も直にバカバカしくなったのだ。
大半の人は、昼時は社員食堂に行くので、オフィスフロアの人口密度は少し低くはなるものの、ふたりきりというわけではない。
郁人は私のデスクに丸椅子を持ってきて、並んで座る。
最初は恥ずかしかったけど、そのうち慣れた。
「ウインナーをタコに切るのは、何か意味があるのか」
「……見た目が可愛いからかな?」
タコさんウインナーの存在意義を問われることになるとは思わなかった。
郁人はたまに変なことを言うので、やっぱりちょっと変人なのだと思う。だからこそ、こんな結婚を平然と出来るのだと思うけど。
彼は甘い卵焼きが好きだと知ったので、それは定番になった。卵焼き以外ももちろん綺麗に食べてくれるので、こちらも作り甲斐がある。
「こうやって半分に切ってから切り目を入れるとお花みたいにもなるよ」
こんなどうでもいい話をしながら一緒にお昼を食べているうち、いつのまにか私たちの不仲説は立ち消えていた。
ぶっちゃけ、最初から不仲でも仲良しでも、なんでもなかったのだけど。
不思議なもので、干渉しあわない契約であったはずなのに、毎日を過ごすうちに私たちはとても自然に、近づいていた。
ただそれに伴い、やはり女子からの弊害は私のもとにやってくることになる。