イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
郁人が心底うんざりした顔でため息をついた。
「くだらない。どうして外野がうるさく言うんだ」
「あはは。郁人はファンが多いから」
「本人同士が好きで納得して結婚したんだ、他人は関係ない」
お湯を注いで、くるくるとかき混ぜているところで、そんなセリフを聞いて。
……好きで、って。
ぼぼ、と不覚にも顔が熱くなる。さっきまでの情けなさとか恥ずかしさとはまた別の意味で。
「わ、私は気にしてないよ、ほんとに」
いや、その好きは、私がってわけじゃないから。
結婚することをお互い納得して、って意味なだけだからね!
危うくときめきかけた自分に、頭の中で叱咤する。そんな言い方したらつい変に意識しちゃうからやめて欲しい。こっちは本当に色恋に関して免疫がないんだから。
ふう、と深呼吸をして落ち着きを取り戻して、郁人に向けて笑って見せた。
「大丈夫だから。郁人と結婚した以外にも、元々私にも一因があるんだと思う。仕事する上で必要以上のコミュニケーションやなれ合いはいらないと思ってひとりで居ることが多かったから、嫌われる要素が最初からありすぎるんだよね……」