恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「おいしいですね。このビーフシチュー。」
「よかったです。少しは暖まりましたか?」
「はい。お陰さまで。ありがとうございます。」
しっかりとお辞儀をしながらお礼をする彼を見て、夢は真面目な人だな、と感じた。
店に入ってからは、我慢していたのか体が震えていて、お店の人に白湯を出してもらったぐらいだったが、今は大分落ち着いたようだった。
「あの、自己紹介をまだしてなかったですよね。僕は、皇律紀(すめらぎ りつき)と言います。」
そう言いながらカバンから名刺を取り出して、夢に渡してくれた。
仕事以外で名刺を貰うとは思っていなかったので、少し驚きながらそれを受けとる。
その名刺には大学の鉱物学部の准教授と書いてあった。それを見て、夢は更に驚いて目を大きくした。
自分の右手にある石は、そんなにすごいものなのだろうかと、不安になってしまう。
それに、彼が自分より少し年上だろう、その若さで准教授になっているのだから、すごい人なのだとわかる。そんな人が、わざわざ寒い中で待ってまで、自分に会う価値などあるのだろうか、とも考えてしまい、夢はテーブルの下でこっそりと右手を握りしめていた。
「ごめんなさい。私は名刺を今、持ってないので……。十七夜夢です。デザイン関係の仕事をしています。」
「夢さん。……理央先輩から写真を見せて戴いてからずっとお会いしたかったです。」
にっこりと微笑む彼の瞳は、真っ黒だけれどもキラキラしており、宝石のようだった。
これが、夢と律紀の初め会った日の出来事だった。