恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。



 「そうだ!じゃあ、交換もしたし、もうお友だちだって事で、これ見せてあげるね。」


 女の子は自分の鞄からスケッチブックを取り出した。
 そして、「見てみて!」と律紀の方にスケッチブックを開いてページを捲っていった。
 すると、そこには色鉛筆で描かれた色とりどりの鉱石のイラストがあった。
 小学生の女の子が描いたのだから、とても上手で似ている、とまではいかなかったけれど、一つ一つ丁寧に描かれているのがわかる。
 

 「図鑑を借りたりしながら、絵描いたんだよ!私大きくなったら鉱石の絵本を作りたいだー。」
 「へぇー……すごいね。綺麗だよ。」
 「へへへー……あ、そうだ!君、鉱石にとっても詳しいから鉱石の事書いて!私は絵を描くから。」
 「え……いいの?」
 「うん。大きくなったら絵本を作ろう。私は今よりもっともっと絵を上手く描けるように頑張るから!」
 「じゃあ………僕は鉱石の勉強頑張るっ!」


 律紀にとってそれは夢のような未来だった。

 律紀の未来には「医師」という決まった未来しかなかった。
 けれど、その女の子が与えてくれたのは、「医師」とは違う鉱石が関係する未来。
 自分のやりたいことを叶えたいと願う彼女はとても輝いていて、自分もそうありたいと律紀も思ってしまった。

 そして、必ずこの夢を叶えたいと。


 「あ、そろそろバス来るよね?」
 「うん。そうだね。」
 「じゃあ、このスケッチブック貸してあげるね。また今度会ったときに返してね。」
 「わかった。ありがとう。」

 そういうと、女の子はバス停のベンチから立ち上がり、マラカイトのキーホルダーを左手でぎゅっと握りしめた。

 

 そして、律紀の前に手を差し出す。


 「私は、十七夜夢。君は?」
 「皇律紀だよ。」
 

 律紀がゆっくりと彼女に合わせて手を差し出すと、夢はすぐに律紀の手を取りぎゅっと握りしめた。


 「律紀くん!じゃあ、また今度絵本の話ししようね。ここに来るから。」
 「うん。絵本作ろうね。」
 「約束ね!」


 繋いだ手をブンブンと横に数回揺らした後、夢はキーホルダーを手にしながら走り去っていった。
 律紀はその少し大きな彼女の背中と、自分の物であったマラカイトが少しずつ遠くなるのを、最後まで見つめていた。




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