恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。



 「夢さんに会ったのはその日が最後だったんです。その後、遠くの多きな病院に入院して、リハビリのために引っ越しもしたと、後から聞いたんです。……寂しかったけど、夢さんが無事だったとわかって、安心したんですよ。」


 そう話しをしながら、律紀は微笑んだ。
 律紀は事故後に、「十七夜夢」という少女がどこの学校の生徒なのか、そして無事だったのか。そして、無事ならば約束の話をしたい、スケッチブックを返したい。そう思って、塾をサボって探し回ったと話してくれた。


 「事故の時と、学校探しとかで塾をサボってしまうことが多くなって。さすがに両親に怒られました。……けど、友達が怪我しかたからと事情を話したらわかってくれました。」
 「律紀くん、私………。」


 そこまで黙って話しを聞いていたこと夢。
 話をしなかった訳ではなく、夢は何も言えなかったのだ。

 自分が忘れてしまっている過去で、律紀は必死に夢を守ってくれて、そして約束を果たそうとしてくれていたのだ。
 そんな彼のひたむきに自分を探してくれた事が嬉しくて、そして申し訳なかった。


 律紀が約束を果たそうと頑張っていてくれたのに、自分は何をやっているのだろうと。


 「ごめんなさい。私、事故の事も約束の事も、そして律紀くんの事も思い出せなかった。」


 自分が初めて、1人の男性に夢中になり、好きになった相手だというのに、律紀は忘れてしまっていた。
 大好きだと伝えた彼の事を、何もわからずに告白していたのだ。

 そんな恥ずかしくて情けない事があるだろうか。


 夢は頭を深々と下げて謝るけれど、律紀は「謝らないでください。僕は、夢さんが元気ならばそれでよかったんですから。……生きていてくれれば、僕があなたを見つけ出して、会いに行けばいいと思ってましたから。」と、優しく言ってくれる。
 

 律紀のその言葉は、とても男らしくて夢の心に響く強い言葉だった。


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