恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「会う日まで鉱石の勉強をすれば、きっと約束の絵本を完成できる。そんな風に思ってたんですよ。………でも、カッコ悪いことに、なかなか夢さんを見つけられなかったんです。」
夢は、彼の言葉を聞きながら首を振った。
彼は約束を果たそうとしてくれていたのだ。
鉱石の勉強を続けて、大学の教授になった。それは自分が好きな鉱石を知りたかったから、だけではなかったという事だろう。
それに、今はこうやって夢の目の前に律紀がいてくれる。律紀がまた会いに来てくれたという、紛れもない真実だった。
「律紀くんは悪くないよ。私の事を励まして、そして見つけてくれたんだから。………こんな大切な思い出を忘れてしまうなんて、お姉さん失格だね。」
「仕方がありませんよ。大きな事故だったんですから。」
律紀は苦笑して、夢を優しく見つめたままそう言った。
そして、慰めるように知らなかった真実を知って動揺している夢の頭を、ゆっくりと撫でてくれたのだった。
★★★
律紀が夢を見つけたのは、偶然だった。
鉱石の研究で有名になれば、彼女が見つけてくれるのではないか。そう思っていた。けれど、夢と律紀は幼い頃に1度会っただけだ。
成長するにつれて、幼い頃の律紀の面影がなくなっているかもしれない。
それにあんなに大きな事故であったし、記憶がなくなっている事も考えられる。
そして、彼女が約束を忘れてしまっている事も。
そう思い始めてから、律紀は諦めるように考えていたけれど、なかなか諦められなかった。
考えれば考えるほどに、忘れなくなかった。
本来ならば、医師になる事はなく、自分の好きな鉱石を自由に調べられる仕事に就く事が出来たのだ。だから、彼女に会う必要はなかったのかもしれない。
けれど、あの夢のような時間を忘れたくなかった。彼女と彼女の描いた絵で絵本を書きたい。そう願っていたのだ。
あの時に見た、鉱石の光のようキラキラと輝く彼女に、律紀は会いたかったのだ。