恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。



 律紀は、夢の右手と持っていたマラカイトのキーホルダーを両手で握りしめた。
 その瞬間、何故か「懐かしいな。」と思ってしまった。そんな記憶があるわけでもないのに、彼にこうされるのが初めてではないような気がしたのだ。


 右手から彼の体温を感じる。
 目の前には、とても真剣な愛しい彼の顔。
 夢は泣き顔のまま、律紀を見据えた。



 「夢さん、ずっと探してました。そして、見つけた時から大切な人になって、そしてどんどん惹かれていきました。」


 彼の手から鼓動が伝わってくるようにおもったけれど、それは自分の鼓動だったのかもしれない。とても早くトクントクンと鳴っていて、胸が苦しくなる。
 けれど、それはとても心地のよい感覚で、不思議ともっと感じていたいと思った。


 夢の右手を律紀が先程より強く握る。
 彼の気持ちが伝わってくるのを感じる。



 「夢さん、好きです。本物の恋人になってくれませんか?」
 

 眼鏡の奥の瞳が揺れて、涙が溜まっているのがわかった。
 緊張している彼を見ると、本気で気持ちを伝えてくれているのがわかり、夢はその涙が伝染したかとように、また大粒の雫が目から溢れた。


 「もう……私もさっき告白したじゃない。……律紀くんが好きだって。」
 「でも、昔の話とか僕の事を知ったら考えが変わるかと思ったので。」
 「変わったわ……。」
 「え………?」
 「もっともっと大好きなった。」


 夢は気持ちを抑えきれなくなり、そのまま彼に抱きついた。
 律紀は驚いて体を固めてしまったけれど、すぐに「あ、ありがとうございます。」と言って、優しく抱きしめ返してくれた。


 天照石よりも温かくて心地ちがよくて、自然の匂いがする彼に包まれて、夢は胸がきゅんとなり、幸せを感じていた。
 好きな人とこうやって触れあうことが、こんなにもドキドキして安心するのかと、その感覚に酔いしれていた。


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