恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「それで、夢さん。右手の鉱石を見せてくれませんか?」
「そうですね。どうぞ………。」
夢は軽く手を握ったまま、律紀の方に右手を差し出した。
やはり、他人に自分のコンプレックスの部分を見られるのは恥ずかしいし、ドキドキしてしまう。
けれど、彼はそれを感じ取ったのか、優しく「すみません。失礼します。」と言って、指を丁寧に広げていった。
そして、夢の掌に埋め込まれている手をまじまじと見つめていた。
温かくなった手で、夢の手を支えながら眼鏡を掛けた目に近づけて真剣に見いっていた。
夢は、その行為がとても恥ずかしく、彼の吐息が微かに手にかかった瞬間。その羞恥心がピークになってしまった。
「あ、あの……どうですか?何か発見はありましたか?」
「え………あぁ、すみません。夢中になってしまいました。鉱石が目の前にあると、嬉しくなってしまって。」
そう言って、彼はやっと顔を上げてくれたのだ。その彼の瞳はとても嬉しそうで、いかに律紀が鉱石好きなのかがわかるものだった。
「星空みたいで、とても素晴らしいですね。綺麗です。」
「星空、ですか?」
「はい!光る部分と光らない部分がありますよね。それが夜空に似ていませんか?僕はこの石、素敵だと思います。」
「そう、ですか………。」
そんなにもこの埋め込まれた石を褒められたのは初めてだった。これを見た人は、顔を歪めるか、「すごいね。」と言葉だけで褒めるかが多かった。
だからこそ、律紀のように夢中になって、自分が醜いと思っていた物を見ているのが、信じられなかった。
けれども、自分の体の一部の石をこうやって褒められるのは、夢だって嬉しい。ましてや、夢自身も鉱石好きなのだ。この石の存在は醜いと思っていても、この石自体は嫌いにはなれなていなかった。
「……えっと、僕何か変な事言いましたか?」
律紀は、心配そうに夢の顔を覗き込んでいた。
きっと、呟くように返事をした後、考え事をしながら彼に支えられている右手を呆然と見つめてしまっていたからだろう。
「いえ。あの、そんな事言われたことなかったので、驚いてしまって。でも………。」
沢山の鉱石を見てきた彼が褒めてくれた。
それはきっと誇らしい事なのだろう。事故によって自分の中に入ってしまった石。ただそれだけなのに、自分が褒められたように嬉しくなってしまった。