恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
4話「ヒビの入った宝物」
4話「ヒビの入った宝物」
律紀の研究室に行く日は、とてもよく晴れており、いつもより気温も高かった。そのため、夢の腕の調子もよく、気分もよかった。
手の不調もないため、この日は仕事にも集中できており、夢は仕事をさくさくこなしていた。
「今日はデートですか?夢さん?」
「わぁ!?……千景さん、普通に話し掛けてくださいよ。」
集中しているところに、耳元に囁くように声を掛けられて、夢はビックリして体を大きく揺らしてしまった。それをみて、千景さんは笑っていた。
「で、どうなの?デート?」
「違いますよ。」
「えー。いつも着てこないワンピース来てるじゃない。私、見たことないからたぶんオフ用か新品と見た。」
「何でそんなに知ってるんですか?!」
ニヤりとした顔で、夢の全身を見ながら観察する千景にビクビクしながら返事をする。彼女は妙に勘が鋭いので、夢のちょっとした反応の違いもわかってしまうのだ。
「まぁ、デートじゃないにしても、いいことあるんでしょ?報告楽しみにしてるねー!」
「………そんなんじゃないですよ……。」
手をヒラヒラと振りながら去っていく千景に、夢は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
実際、今日の夢はいつもよりおしゃれをしていた。いつもより目覚ましを早めにセットして、髪もメイクを念入りにしていた。服装は自由なこの会社なので、目立つことはなかったけど、いつもより華やかな服装なので、気づいている人は多いのかもしれない。
男の人と会うのだから、最大限の身だしなみは整えておかなければいけない。自分ではそう思うようにしていた。
仕事帰りを楽しみにしているのは、律紀と会うのが楽しみなのではなく、鉱石を見るのが楽しみなんだ。そんな事も自分に言い聞かせた。
夢は、自分の気持ちに蓋をして、気づかないふりをしていたのだった。