恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。



 仕事が終わり、すぐに職場を出て電車に乗り込んだ。職場から律紀の大学はすくだったのは幸運だった。彼も仕事が終わった後に待っていてくれるのだ。なるべく早く着けばいいなと、夢は考えていた。

 待ち合わせ場所は、大学の正門。
 もう真っ暗になる時間帯だったけれど、学生も沢山いた。寒くないように暖かいところで待ち合わせしたかったけれど、律紀は「今度は3時間も待たないので大丈夫です。」と笑っているだけだった。


 大学が見えてくる頃には、すぐに律紀を見つけることが出来た。背が高くのもあったが、前回と同じコートにマフラーをしていたので、夢はすぐにわかった。


 「すみません。お待たせしました。」
 「いえ。こちらこそ、わざわざご足労いただきまして、ありがとうございます。」


 二人で頭を下げて挨拶をしていると、周りの学生たちがじろじろと見ている視線に気づいた。
 よく考えてみれば、部外者の自分が大学に来ていいのだろうかと不安になってしまったけれど、律紀は何も気にした様子は見せずに「行きましょうか?」と、案内してくれた。


 広い学内を律紀は簡単に案内してくれた。
 律紀の研修室に行くまでのものだったけれど、久しぶりの雰囲気で、夢はとても新鮮さを感じていた。
 白い校舎に、廊下も大きな窓があり、とても近代的だった。至るところに電光掲示板があり、いろいろな情報が表示されていた。

 つい先程まで学生の声が響き渡っていたが、律紀の研究室がある棟に入ると、とても静かになった。
 教授たちの部屋が集まるところらしいので、それには夢も納得だった。


 「ここです。どうぞ。」


 律紀が立ち止まったドアの前には、「皇 律紀」とプレートが書かれており、外出中となってた。入室するときに戻すのかと思いきや、律紀はそのまま部屋に入ってしまった。けれど、夢の視線に気づいたのか、「在室にしておくと、生徒が入ってきて邪魔されてしまうので。」と、教えてくれた。
 


 律紀の研究室に入った瞬間。
 夢は「わぁー………。」と、自然に声が洩れてしまった。木目調の棚には、木で仕切られた物入れが入っており、一つ一つに鉱石が大切に保管されていた。しっかりと名前や採掘地も書かれている。
 まるで、ゲームの中の魔法道具が売っているような不思議な空間だった。
 

 「わぁー!すごいですね。ルチルクォーツの中に何かありますね。綺麗……カルカンサイトの青もとても澄んでいて素敵です。こっちには………。」


 夢は気づくと、鉱石に夢中になっており、棚に近づいて目につくものを眺めていた。
 大きな独り言を言ってしまい、そして、律紀の視線に気がついて、夢はハッとした。


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