恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「夢さんが選んだのは……マラカイトですね。」
「はい。」
夢が選んだものは、マラカイトという鉱石で緑や黒が混ざっている鮮やかな石だった。
加工されて小物やアクセサリーになるが、魔除けとして使われることが多い石だ。
「少し意外でした。女の方は、アメジストとかピンクサファイヤとかキラキラして淡い色のものが好きなのかと。」
「そういうのも好きなんですけど、なんかマラカイトは昔から惹かれるものがあって。特に緑色が好きとか、深い理由はないんですけど。」
「………スマホについているキーホルダーもマラカイトですよね?」
「そうなんです。これは、宝物なんです。」
夢はバックに閉まってあったスマホを取り出して、丸く加工されているマラカイトのキーホルダーを優しく指で撫でた。少しヒビが入っているこの鉱石は、幼い頃からの持っている、夢の宝物だった。
「………宝物、ですか。」
「はい。理由はわからないのですけど、とっても気に入っているんです。」
夢がそういうと、律紀は何故か切ない表情で微笑んだ。
夢はその表情の意味がよくわからず、訪ねようとした瞬間に「顕微鏡など持ってきますね。」と言って、立ち上がって部屋から出ていってしまった。
たまたまそんな表情をしただけなのかもしれない。彼の宝物というのを思い出して、そんな顔をしたのかもしれない。
けれど、夢はその彼の表情が少しだけ気になっていた。