恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
夢は律紀の話を聞いて、ショックを受けてしまっていた。
律紀はきっと厚意で提案してくれるているのだとわかる。夢も何回もこの石を取ってしまおうかと考えたことがあった。
けれど、これは絶対になくしてはダメだとも思っていたのだ。自分を助けてくれた人を忘れずに、感謝しなければいけないと思っていたからだ。
それに、右手を切開するとなると多少なりとも手に傷がつくだろう。彼はそれでもいいと思っているのだろうか。
それに、もう夢が大学に来ないでも済むということになれば、夢と律紀の接点もなくなってしまうのだ。
彼は夢と会う必要などないと思っているのだろうか。
それが、夢には悲しくて仕方がなかった。
自分だけが、彼を気にして、ドキドキしていた。
それがわかってしまったのだ。
「それは、出来ません………。」
夢は、今の自分の顔を見られたくなくて、視線を外に向ける。それに、せっかく提案してくれたのに、それを承諾しないのも申し訳なかったのだ。
「あの……私、幼い頃事故に合ってしまって。あ、その時に右手に鉱石が入ってしまったんですけど。それだけじゃなくて、左腕も少し不自由なんです。なので、右手が使えなくなると、仕事も出来ないので、少し困ってしまうんです。………だから。」
自分の気持ちを隠すように、言い訳をつらつらと早口で伝える。話したことは本当の事だけれど、少し罪悪感がある。
右手を切ったぐらいで、仕事が出来なくなるわけではないだろう。
けれど、律紀はとても悲しそうな顔をしながら、その話しを真剣に聞いてくれていた。
そして、小さな声で「すみません………。」と言ったのだ。
「いえ、律紀さんはわるくないですよ?」
「…………。でも、女の人に簡単に傷を作れなんて失礼な話でしたね。本当にすみません。では、その鉱石の事は無理しなくていいですので。」
「………あの、律紀さん。」
律紀が今回の事はなかったことにしようと言おうとしたのだろうと夢は思うと、咄嗟にその言葉を遮るように、次の言葉を掛けた。
「私、またここに来てもいいですか?」
「え………ですが。」
「私が知りたいです。この鉱石の事を。」