恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
そんな事を考えていると、せっかく律紀がコーヒーを淹れてくれていたのに、冷めてしまうと気づき、「コーヒーいただきます。」とお礼を言ってからコーヒーカップを取ろうとした。
けれど、昨日の来客用であろうコーヒーカップとは違う、翡翠色の綺麗なカップが夢の前に置かれていた。
どこかマラカイトに似ているその色に、夢は目を奪われた。
「律紀さん、このカップは………。」
「あぁ、気づいてくれましたか。僕の恋人のために用意してみました。」
「え………。」
「僕は恋人としてどんな事をしていいのかわからなくて。なので、取り合えず形からはいればいあいかなと思いまして。安直かもしれませんが。」
律紀は少し恥ずかしそうに苦笑しながら、そう話してくれた。
夢は、その綺麗な緑色をしたカップをジーっと眺めていた。
彼が自分のために選んでくれた物。そして、偽りであっても恋人として見てくれる時間があったこと。それが何より嬉しかった。
隣に置かれているグリーンガーネットの輝きもとても綺麗なものだった。けれど、夢はその鉱石よりもこのコーヒーが入ったカップが、どんな鉱石よりも輝いて見えた。
「………あまり好きなデザインではありませんでしたか?」
「いえ!そんな事ないです。とっても嬉しいですっ。」
自分でも顔が赤くなりニヤけてしまうのがよくわかった。けれども、それを我慢できるはずもなく、夢はそんな表情のまま彼を見た。
「ありがとうございます。律紀さん。」
「………いえ。喜んでもらえれば、僕も嬉しいです。」
彼は耳を赤くしながら、視線を夢から外した。
律紀が少し照れているように感じたのは、きっと見間違いではない、と夢は思った。