恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「夢さーん!今日の合コン忘れてないよねー?」
「千景さん。忘れてないですよ。19時からですよね。」
昼休みになると同時に、先輩の千景が夢のところへやってきた。ショートカットが似合う綺麗なお姉さんだ。後輩の夢を可愛がってくれていた。
「夢の頼みだからね。早く彼氏作りなさいよー!」
「そうですよね。なかなかイイ人見つからなくて。」
「頑張りなさい!それと、今日は手袋しないで行ってみたら?」
「………考えておきます。」
千景にそう言われ、夢は右手を見つめながら困ったように微笑みながら曖昧に返事をした。
夢は時々不自由になってしまう左腕よりも右手にコンプレックスを持っていた。それ見るだけで、どうしても憂鬱になってしまうのだ。
千景のように全く気にしない人ばかりだといいのだけれど、世間はそう甘くはなかった。
その日の夜。
千景が主催の合コンがあった。
あまりこういう雰囲気は好きではない夢だったけれど、それでも恋人が欲しいと思っていた夢に千景が誘ってくれたのだ。
夢のために優しい人集めたんだよ、とまで言われてしまうと断ることが出来なかった。
それに、千景の知り合いとなるときっといい人ばかりだろう。そんな風に信頼もあったので、学生ぶりの合コンが少しだけ楽しみにもなっていた。
おしゃれな居酒屋さんでの合コンは、とても落ち着いた雰囲気でスタートした。
年上の男性が4人だったこともあり、騒いだりもしないで、ゆっくりと話しを楽しむものだった。
自己紹介をした後は、近くの人とお酒を飲みながら話しをする。
夢にとっても、ありがたい雰囲気だった。
「夢さん、デザイン関係って、どんな事してるの?」
隣に座っていたのは、年上には見えない笑顔で、目がくりくりしていて可愛い雰囲気の男性だった。名前は理央だと教えてくれた。可愛い系のイケメン、という言葉がピッタリなだったけれど、仕事は医師だというので驚いてしまった。
「ほとんど事務ばかりなんです。けど、こんなのを描いたりしてます。」
スマホから以前に描いた、とある広告に載せるウサギのイラストを見せた。すると、理央は「可愛いねー!僕の病院、小児科だからいろんなところに描いて欲しいよ。」と褒めてくれた。
そんな事はなかなか言われることがなかったので、夢は嬉しくなってついつい微笑んでしまう。
自分の仕事を褒められるのは、やはり嬉しいことだった。
けれど、やはりそれだけでは終わるはずもなかった。