恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「あの、夢さん。今日は石を削ってみてもいい?」
「削る……?」
「うん、固さとかも見たくて。……細い金属で削るだけだから痛くはしないつもりだよ。」
「それぐらいなら……。」
鉱石を見るときは研究室の奥のスペースで行っていた。律紀の仕事をする机や、理科室にありそうな物が並べられた棚などが置かれている。
律紀の椅子の隣にパイプ椅子を持ってきて、夢と律紀は向かい合って座っていた。
今までは顕微鏡などで見たり、部屋を暗くして明かりの様子を見ることが多かったが、今日は少し違うことをするようだった。
「ありがとうございます!破片だけでも取れたらいいんだけど。」
「取れた方が律紀は詳しく調べられるの?」
「はい!あ、でも、無理はしなくていいので。」
その笑顔はとても幼くて、子どもが初めて何か知った時のイキイキした表情だった。
やはりこの人は研究者で、夢を相手にしてくれるのはこの右手の鉱石があるからなんだ。
そんなわかりきっていた事を、今更感じてしまう。
律紀は、自分ではなく鉱石を見て笑顔になっているのだと。
先が尖った細い工具を取り出して、ガリガリと石だけを引っ掻くように、真剣な表情で夢の右手の見つめて作業をしている。
「んー………固いな。これだと、破片でさえも取れないかも……。」
「…………….。」
「夢さん?」
「えっ!?」
「痛かったり、響いたりしてないかな?」
「うん、大丈夫だよ………。」
それでも、心配そうに顔を見つめてくる律紀に、夢は少し困った顔を「どうしたの?」と聞いてくる。
やはり、鉱石を詳しく調べるためには掌から取り出すしかないのだろうか。
彼に再度それを相談されたら、どうしようか。そんな事を考えてしまっていると、律紀は全く違う事を話し始めた。