恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。



 恥ずかしげもなく言う彼に対して、夢はその言葉を聞いただけで、ドキドキしてしまう。
 腕を組んだときは照れていたのに、間接キスは平気なのだろうか?


 「恥ずかしいけど、いただきます。」

 「ど、どーぞ。」

 そんな事を言いながらも、律紀はいつも通りの笑顔で、夢のチャイティーラテを一口飲んだ。
 夢は心の中で「あー……間接キスしちゃってるよぉ。」と、動揺しながらも必死に顔に出さないように冷静を装っていた。


 「ん……なんか、刺激的な味ですね。」 
 

 律紀は少し苦い顔をしていた。香辛料が合う合わないがあるので、この飲み物は好き嫌いが分かれるのを夢は知っていた。
 律紀はあまり好みではなかったようだ。


 「おいしいんだけどなぁー。」
 

 夢は、チャイティーラテを受け取って、じっとカップを見つめる。
 20歳後半になっても、こんな事でドキドキしてしまってはダメだ、と思いながらも視線は飲み口へと言ってしまう。

 夢は緊張した顔でチャイティーラテを一口飲み、そんな姿を律紀は微笑みながら見守っていたのだった。
 



 夕日が出てきた頃に、近くのスーパーで食材を買い、律紀の家へとお邪魔した。
 重い荷物は律紀が持ってくれた。


 「何もない場所ですけど、どうぞ。」
 「お邪魔します。」


 律紀の家に入ると、ほんのりと温かく、そして石の香りがする。夢はほっと安心して、軽く息を吐いた。
 自分の家ではないし、本当の恋人ではない人の部屋なのに、安心するのはおかしな事かもしれない。
 けへど、夢は少し寂しげだけれども律紀らしい家の雰囲気が好きだった。

 律紀は玄関に荷物を置き、「あ、そういえば……。」と何か思い出したように呟いていた。
 夢も靴を脱ごうと身を下げようとした。
 


< 63 / 131 >

この作品をシェア

pagetop