恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「すみません。……あの、十七夜夢さん、ですか?」
「え…、はい。」
夜道で名前を呼ばれ、驚いてしまい、つい返事をしてしまう。
呼んだのは男の人の声だったので、夢は体が強ばってしまった。
恐る恐る声がした方を見ると、そこには長身で細身の黒髪の男が立っていた。ロングコートにチェックのマフラーを首にぐるぐる巻きにしおり、顔には眼鏡をかけていた。コートから出る黒のズボンは男の人とは思えないぐらいほっそりとしていた。そして、綺麗な黒髪は何故かボサボサだった。けれど、整った顔のせいか、それさえも似合って見えていた。
「と、突然すみません。あの、鉱石についてちょっと聞きたいことがありまして。」
「………あ。」
その男の人は、少しおどおどしながら、夢がスマホを持っている右手を見つめていた。
それで、夢はすぐに理央さんが言っていた人がこの男性だとわかった。
夢が初めて会う人で、右手にある鉱石を知っているはずがないのだ。
きっと、理央から聞いてここまでやってきたのだろう。
「もしかして。理央さんの………。」
「そうです!写真を見せてもらって。よかったら、見せてくれませんか?」
「…………えっと、ここでですか?」
「はい、ぜひ!」
先程のオドオドした顔から一転して、その男性は目をキラキラして夢の右手を見つめていた。
そんな顔をされてしまったら、断ることも出来ない。悪い人ではないのは雰囲気でわかった。
夢は、仕方がなく外用の手袋を右手だけ外して「……これです。」と 右手を差し出した。
すると、何故かその眼鏡の男性は少し驚いた顔をして夢を見つめた。
何故右手を見る前から驚いているのか、夢にはわからなかったので、「どうしました?」と、小さな声で尋ねてみる。自分の顔に何かついているのだろうか?そんなことさえ考えてしまった。