恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
部屋の暖房を付け、そしてすぐに風呂を準備した。
「夢さん、これホットコーヒーです。これ飲んでいる頃にはお風呂が沸くと思いますので、入って体を暖かくしてください。」
「え、お風呂まで?大丈夫なのに……。」
「入ってください。」
「………わかりました。」
夢はしゅんとした顔を見せて渋々納得してくれたようだった。
大きめの膝掛けを肩からかけ、リビングのソファに座りながら温かいコーヒーを飲んでいる夢は、少し安心したのかホッとした顔を見せていた。
「さっきは怒鳴ってしまってすみませんでした………。」
「ううん。私が連絡なしに待ってたのが悪いことだから。」
「……夢さん。僕はやっとわかった気がします。」
「え……?」
「初めて夢さんに会いに行った時に、怒った顔をして手を引っ張って温かいところまで連れていってくれましたよね。初対面だって言っていたのに、どうしてそんな人の事を怒るんだろって不思議だったんです。」
勝手に待っていた人の事を、怒る夢を律紀は何故そんな感情になるのかわからなかった。
好きでやっているのだから、いいのではないか。そう思ってしまったのだ。
「けど、今日わかりました。自分の事を待ってくれた人が寒さで震えていたら、心配になりますよね。そして、そんな思いをしてまで待ってもらえるって、少し嬉しくてドキドキして……だからこそ、その相手が体調を崩さないようにしてあげたくなるんですよね。」
「律紀さん………。」
「こんな事を気づかないなんて、やっぱり僕は研究ばかりしていたダメな男なんだなって思いました。」
「………そんな事ないと思います。」
「夢さん?」
黙って話しを聞いていた夢が、ポツリと声を洩らした。そして、律紀をじっと見つめた瞳はとてもまっすぐでキラキラとしていた。
「そうやって自分の気持ちと向き合って、話してくれる人はダメではないと思います。気づいてくれたんだから、私は嬉しいです。」
「夢さん、僕は………。」
思わず律紀はずっと話したいことを彼女に伝えよう。そう思ってしまった時に、風呂が沸いた事を知らせる軽快な音楽が聞こえてきた。
そうだ。まずは彼女の体を温めることが先なのだ。
「すみません。話しは後でしましょう。何か食事を注文しておくので、ゆっくりしてきてくださいね。」
「………ありがとう、ございます。」
夢は少しぎこちなくだが笑顔を見せてくれた。
それだけで、律紀の心は晴れていくようだった。