恋愛下手な年下研究者の実験体になりました。
「君、この鉱石の名前知ってる?」
「う、うん。」
「何て言うの?」
「マラカイトだよ。」
「マラカイト。不思議な名前ー。でも、この鉱石にピッタリで魔法みたいな名前だね。」
魔法みたいな名前。
それは律紀も思っていた事だった。魔除けとして使われるなんて、魔法のようだ、と考えていたのだ。
「お姉ちゃんも鉱石好きなの?」
「うん!君もでしょ?」
「うん。好き。この図鑑で勉強してるんだ。」
図書館で借り続けている鉱石の図鑑を見せると、その女の子は「いいなぁー!」と歓声をあげて羨ましそうにしていた。律紀はそれだけで、何故か嬉しかった。
こうやって、同じ年ぐらいの友達と鉱石の事を話せるのが初めてだったので、興奮していたのかもしれない。
「ねえねえ。私の宝物も見てくれる?図鑑に載ってるかな?」
女の子は、そういうと鞄の中から小さな袋を取り出した。
そして、小さい手の上に入っていた鉱石を載せた。
「これだよ。」
「………すごいっ!!石の中に何か入ってる!」
「うん。お花と虫さんが入ってるの。えーっと、琥珀っていうんだって。おじいちゃんから貰ったんだ。」
べっこう飴のようなオレンジ色の透明な石の中に閉じ込められていたのは、枯れた花と羽のついた小さな虫だった。
キラキラひかっているその鉱石は、まるで夕日を閉じ込めたような、暖かい石だった。
「すごい!琥珀の中に虫が入ってるなんて、貴重だよ!」
「そうなの?………見てみる?」
「うん。……かなり価値があるよ!……いいな。すごい………。」
律紀は感動と興奮が混じった感情のまま、夢にそう言った。今まで鉱石を見たのは鉱石屋に1度行った時だけで、こうやって触れたのは、自分のマラカイトだけだった。