水瀬くんは浮気をする生き物です
私に至っても、きっかけはほんの些細なことだった。
あれはよく晴れた4月。入学式を終えて数日程だったある日の放課後。
「ねぇ!」
最寄り駅で呼び止められて振り返ると、そこに立っていたのが水瀬くんだった。
「これ、落としたよ」
「わ、ありがとうございます…!」
差し出されたのはパステルピンクのケースに入った定期。間違いなく私のもの。
「よかった間に合って。じゃあ俺、戻るから」
「えっ、わざわざ降りてくれたんですか!?」
「だって定期って大事じゃん。ないと困るでしょ?」
再びホームへ並び直そうとする水瀬くんは、当たり前みたいに笑ってくれて。
「な、何かお礼を…!」
「いいよ、そんなの!その代わり、もう落とさないようにね」
ひらひらと手を振った彼は、そのまま人混みの中に消えていってしまったけれど。
あのときの笑顔がずっと忘れられなくて、こうして遠くから眺めること早1年。