ブサイクだけど、キスしてくれますか?
「幸枝さん、帰りは山手線ですか?」

「そうそう、高田馬場で乗り換えなの。雪城くんは?」

「僕は、普段は山手線じゃないんですけど、遠回りして山手線乗っちゃっていいですか?」

嫌だなんて、言えなかった。なんで遠回りして山手線に乗ってくれんだろう。期待したくないのに、期待させないでよ。

電車はすぐに来た。

「山手線の足元のヒーター、凄く好きなんです。眠くなるんですよね。」

心無しか、雪城くんの体がくっついていた。彼は無意識だ。この距離の近さに意味なんてないって言い聞かせた。

「少し寝てもいいですか?」

ずるい。もうすぐ新宿、あと2駅で高田馬場なのだ。

返事もなしに、彼はまぶたを閉じた。体を私に任せた。そして手を繋いだんだ。

手を繋ぐことにどんな意味を持ったんだろう。意味なんてないなんて言わせない。

高田馬場を過ぎ、山手線はぐるぐる回った。
明日になったら、きっと雪城くんは忘れているのであろう。

それでもいいんだ。熱い体温が凄く幸せだった。

< 5 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop