Stockholm Syndrome【狂愛】
「……君は僕のことが嫌い?」
そう訊くと、沙奈は十秒ほど迷ったように口を開きかけ、やがて左右に首を振った。
「……嫌いじゃない」
「そっか。……良かった」
そっか。
……そうなんだ。
理由もわからず僕は安堵し、胸を撫で下ろした。
「りんごを切ったんだ。僕が食べさせてあげるよ」
皿の上に盛ったりんごの切れ端を掴み、沙奈の口の中へと運ぶ。
沙奈の唇が時たま僕の指先に触れて、温かさを感じずにはいられなかった。
「…美味しい?」
「……うん」
「そう。僕もりんごは好きなんだ。初めて食べた果物だからかもしれないけどね」
沙奈の口元がぎこちなく、ほんの少しだけ、弓なりに弧を描く。
「……大好きだよ。沙奈も」
抱き締めると感じる沙奈の鼓動は、日を追うにつれ、速くなる。
それは僕の鼓動と共鳴し、心地の良いリズムを刻んでいった。
……しとやかに流れていく沙奈との時間が、僕にとっては最愛の時なのだから。
沙奈にキスをし、舌を絡ませる――。
幸せな日々が、続いた。
けれどある日。
沙奈が言った。
「……あなたは、
どうして私を監禁したの?」と。