Stockholm Syndrome【狂愛】
がらくたを掻き分けて布を引っ張り出し、中を確認する。
そこには、蛍光灯の光を浴びて鋭い光を放つ銀色のハサミが包まれていた。
細く尖った刃先は傷んでおらず、切れ味もあまり落ちていないように見える。
ハサミを手にクローゼットを閉めて振り返ると、シンクの上に置いたままのナイフが目に入った。
必要性を感じなくなったナイフは存在意義をなくし、もう数週間も前からあの状態で放置してあるままだ。
……僕だって、進んで使いたいものではなかったから。
机の前に置いた椅子も持ち、再び沙奈の部屋に戻った。
彼女の足の縄を外し、ハサミを持つ。
「ゆっくりでいいから」
硬い木の椅子をベッドのそばに設置し、上半身を起こした沙奈の手を握りしめてエスコートするように椅子へと誘った。
沙奈の髪を切らせてもらえることが嬉しくて、しかたがなかった。
「どのくらい短くする?」
「……肩につくくらいまで」
沙奈は唇を閉ざし、それ以上は何も言わなかった。
「わかった、じゃあ……切るね」
髪に刃を通し、手に力を込めると、彼女の髪が切断される感触が伝わる。
腰ほどまで伸びた髪は床に広がり、ざく、ざく、ざく、と手に感触が伝わるたびに髪は宙を舞って僕の足元を黒く染める。
しばらく切っていると、沙奈が静かに声を発した。
「……ねえ」
「なに?」
「私がお願いをしたら、あなたは聞いてくれるの?」
一瞬、胸の奥がざわついて手が止まった。
「……聞くよ。沙奈の言うことならなんだって」
「……そう」
「なに?」
「……切り終わったら、言うから」
それ以上沙奈はなにも言わず、また口をつぐんで背もたれに背を預けていた。
髪を切り終え、バランスを整えながら、沙奈の頼みとはいったい何なのかを考えていた。