クールな彼のニセ彼女
「町田、じゃーなー!」
「おー」
ドキッ
他の人が発する“町田”という名字だけで、わたしの心臓はこんなにも簡単にジャンプしてしまう。
そして、見ていなくても聞き分けることができる本物の彼の透き通るような綺麗な声に、さきほどより大きなジャンプを、もう一度。
さりげなく教室の出入口をうかがうと、町田くんが去っていく後ろ姿をわたしの視界はこっそりとらえた。
はあ~きゅん!
今日もかっこよかった…。
ありがとう!目の保養と心の補給、ごちそうさま!…なんちゃって。
「おー」だって。わたしも真似して言ってみようかな。うふふ。
っあ、いけない、数学の教科書を今日は持って帰らないと!
数学のテストの訂正ノートが、土日明け提出なのだ。
そのことを思い出したわたしは机の中から数学の教科書を引っ張り出した。
よかったあ。教科書がないとポイントとかまとめられないもん。
「っあー!!」
そのとき後ろのほうから、なにかしでかしてしまったかのような男子の大きな声が聞こえてきた。