クールな彼のニセ彼女
「リンゴジュース好き?」
「ええと…す、好き」
いきなりの質問にまたパニック。しかも町田くんの口から“スキ”というワードが出て慌てないわけがない。静まれわたしの心臓~!
がこんっ
町田くんはすぐそばにある自販機から、ペットボトルのリンゴジュースを一本購入した。小銭を入れ、ボタンを押し、下から商品を取り出す。だれかがしているのを何度も目にしたことがあるたったそれだけの動作のはずなのに、町田くんがするとこんなにもさまになる。こんなことを言っているのはわたしだけかもしれないが。
「これ、あげる」
差し出されたリンゴのジュース。
「い、いいの…?」
なにこれ、どういう展開?いつからわたしは町田くんからジュースを買ってもらえる仲に!?
「お詫びにならないかもしれないけど」
「う、ううん、嬉しい…!ありがとう…!」
嬉しい嬉しい嬉しい。こんな嬉しいことってないよ。好きな人からジュースをもらえるなんて。
「…それじゃ」
町田くんはそう言ってわたしに背を向けた。
「う、うん…っ」
また月曜日ね。って。ばいばい。って。
そんな気のきいた言葉は出てこなくて。
思わずペットボトルを握りしめた。
遠ざかっていく広い背中。
さっきまでの出来事が、嘘かのよう。
ペットボトルのフタを開け、ゴクリと一口飲む。えらく乾いていたのどをするすると滑っていく。優しい甘さとほどよい酸味が、胸にきゅんと染みた。
町田くんのことをますます好きになってしまった。