クールな彼のニセ彼女
「付き合ったのはおめでたいけど、片思いのときとさほど変わんないねえ」
あれから数日たったある日、卵焼きをもぐもぐごっくんしたミカコが、なんの疑いもなくそう言ってきた。
一瞬だけどきりとするわたしの心臓。
「わ、わたし付き合うのはじめてだからまだよくわかんないし、みんなの前だと恥ずかしいから」
無難そうな理由を並べてみる。ミカコにも、わたしが町田くんのニセ彼女ということは、内緒。ちょっと心苦しいけれど。
「あそこのカップルみたいにもっとラブラブすればいいのに!」
あそこのカップル、とは。
教室のはしでイチャイチャしてるこのクラスの認定カップルのことである。
うわあ、教室で手、繋いでるし…!!う、うらやましい…!!ってなに言ってんだわたし!!
町田くんとはあれから連絡先を交換し、“登録しました!”の延長で他愛のないはなしをしているけれど……
教室ではカップルらしいことはなにもしていない。
メッセージのやりとりだけで、わたしは胸がいっぱいだ。
「──成川」
そのとき後ろからだれかに話しかけられた。
え、この声って……。