それは、見事な
「お姉さん、朝だよ!」声は大きいのに、扉は控えめに開けられる。半分覚醒している目をむけて、低い声で「うん」と答えると、母はあまり見てはいけないものをみた様子になり、そっと扉をしめる。その後に、玄関に近い妹の愛の部屋の扉をたたいく。「愛ちゃん、朝だよ。起きなさい」愛の組み立て式ベッドをギシギシ揺する音がする。最後に、だれも起きていない部屋に向かって勢いよく「行ってきます」と声をかける。玄関がしまる音がするのを確認してハルは布団から起き上がった。

目覚ましテレビから特ダネに変わる。自分でも、早く起きられた方だと思いながら、小倉さんのコメントを聞く。体は、水をすったパンのように重く、ソファーから起きられない。だけど、ここまでくれば大丈夫。いつまでも、布団にいると、いつもの憂鬱につかまり布団の中から出れなくなる。布団の中に留まれば、そこは楽園であり地獄だった。現実逃避の、柔らかく気持ちのいい陶酔感と、あとはひたすら寝すぎてしまったために起こる頭痛と、自己嫌悪と、自己否定の繰り返しで一日が終わる。それに、一回布団から出れなくなると、しばらく出られなくなりそうで、ハルはそっちの方が怖かった。
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