炎は水とともに散り行く
「紅蓮くん。大丈夫?」

咲村さんが、僕の顔を覗き込んだ。時雨も僕の顔を覗き込んでくる。僕は、時雨に「顔を近づけるな」と言った。時雨は「何で俺だけ!?」と言って不満そうな顔をした。

「…時雨さん。あなた、生まれ変わる前の記憶があったのですか?」

「ありますよ。ずっと前から」

「珍しいですね…紅蓮さんも生まれ変わる前の記憶を思い出したのでしょう?」

「あぁ。あれは、女神様が故意でやったのか?」

「何もしていません。あなた自身が思い出したんですよ」

女神様が首を横に振った。そして、「そんなこともあるんですね…」と呟いた。

「紅蓮、頭が痛そうだったけど大丈夫!?」

時雨は僕に抱きついてくる。僕は「抱きつくな、気持ち悪い」と言って時雨を引き剥がす。時雨は「…さすがに酷くない!?」と僕に笑いかける。

「…頭が痛かった。思い出さなくて良いことを思い出したからか?」

「前例が無いので私にも分かりませんが、恐らく…死神が転生をする時、記憶は全て消えます。それを無理やり思い出そうとしたから、頭が痛くなったのかも知れませんね」

曖昧な説明をした女神様は、「分かりにくい説明ですみません」と謝った。

「気にしないでください」

「…実は、生きた人間が天界へ来ることが出来ません。例え、私が天界へ送ったとしても…あなた達は、天界に来ることが出来ました。それは、あなた達が死神に対する想いが大きいからでしょう」

確かに、あの時の(生まれ変わる前のだが)僕は死神をずっとやっていたかった。生まれ変わっても死神をやるんだ!と意気込んでいたほどだ。

「そこで、生きている間だけ死神をやりませんか?」
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