炎は水とともに散り行く



「と言うわけで死神になったんだけど…」

時雨が春陽に向かって言った。

「…そうだったんですね」

春陽は、僕達に向かって微笑んだ。まだ桜の木に残っていた桜の花びらが、暖かい風に乗ってふわりと散った。風で揺らめいた桜の花びらは、春陽の手のひらに乗る。

「春の陽を浴びた桜は、春を輝かせる…か。この言葉を良く僕の兄が言っていたんです。『春陽は、桜のようだ』とも言ってました」

「なぜ、春陽は桜なんだ?」と僕が聞くと、春陽は困った顔をした。

「…学校の方は大丈夫なんですか?」

僕は時計を取り出し、確認する。時計は『8時』を指している。僕らは、今日、女神様に頼まれたことをやらなければならなかった。しかし、春陽の話も気になっていた。

「…すぐに終わるなら聞く」

「すぐに終わると思いますよ」

春陽は、はにかんだ。そして、少しの間をおいて話し始めた。

「兄に聞いてみたんですよ。『何で僕は桜みたいなの?』って、そしたら『春陽は4月生まれでしょ。春の名前が使われているし、暖かくて優しいし、これは、俺だけかもしれないがどこか儚さを感じるんだ。桜も春に優しく咲き、暖かさをくれる。どこかに儚さもあって…な、お前みたいでしょ?もしかしたら、桜のように春に散るのかもね』と言ってました」

「…4月生まれ」

「僕の誕生日は、4月25日です」

「おい、今日って…」

確か、今日は4月25日だったような気がした。

「はい。今日は僕の誕生日です!」

春陽は、再び微笑んだ。その笑みには、辛さが混ざっている。
< 11 / 14 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop