炎は水とともに散り行く
「と言うわけで死神になったんだけど…」
時雨が春陽に向かって言った。
「…そうだったんですね」
春陽は、僕達に向かって微笑んだ。まだ桜の木に残っていた桜の花びらが、暖かい風に乗ってふわりと散った。風で揺らめいた桜の花びらは、春陽の手のひらに乗る。
「春の陽を浴びた桜は、春を輝かせる…か。この言葉を良く僕の兄が言っていたんです。『春陽は、桜のようだ』とも言ってました」
「なぜ、春陽は桜なんだ?」と僕が聞くと、春陽は困った顔をした。
「…学校の方は大丈夫なんですか?」
僕は時計を取り出し、確認する。時計は『8時』を指している。僕らは、今日、女神様に頼まれたことをやらなければならなかった。しかし、春陽の話も気になっていた。
「…すぐに終わるなら聞く」
「すぐに終わると思いますよ」
春陽は、はにかんだ。そして、少しの間をおいて話し始めた。
「兄に聞いてみたんですよ。『何で僕は桜みたいなの?』って、そしたら『春陽は4月生まれでしょ。春の名前が使われているし、暖かくて優しいし、これは、俺だけかもしれないがどこか儚さを感じるんだ。桜も春に優しく咲き、暖かさをくれる。どこかに儚さもあって…な、お前みたいでしょ?もしかしたら、桜のように春に散るのかもね』と言ってました」
「…4月生まれ」
「僕の誕生日は、4月25日です」
「おい、今日って…」
確か、今日は4月25日だったような気がした。
「はい。今日は僕の誕生日です!」
春陽は、再び微笑んだ。その笑みには、辛さが混ざっている。