炎は水とともに散り行く
髪飾りを外し、学校に着いた僕は席に座り廊下を眺めていた。廊下を1人の少女が通る。僕は、はっと顔を上げる。時雨の父だった子なのだ。確かに、たくさんの霊がいる。
「……紅蓮!!」
教室に入ってきた時雨は、僕の席に走ってくると、僕に抱きついた。同じクラスメイトの人は、僕らを見て苦笑いをしていた。
僕は時雨に「だから、抱きついてくるなと言っているんだ!」と言った。時雨は、それでも離れようとはしない。「離れろ、気持ち悪い!!」と怒鳴ると、やっと時雨が離れた。
時雨は「だから、ひどいって…」と言って、肩を落とす。
「それより紅蓮…」
時雨の声が小さくなった。僕は「分かっている」と小声で返し、席を立つ。廊下に出ると、周りにバレないように髪飾りを付け、少女の後を追った。
「時雨、春陽の方は…」
「あぁ…天界に連れていったよ。後は、女神様と明日転生をする先輩に任せて戻ってきた」
後を付いて歩いていると、少女は職員室に入り「おはようございます」と先生に挨拶をする。「朝比奈(あさひな)さん。今日も元気だね」と先生が微笑む。
「私、体調が悪くなってきたんですけど…」
「…大丈夫?保健室で休みなさい」
先生は、心配そうな顔で少女を見つめた。
「分かりました…失礼しました」
少女は、職員室のドアを閉めた。僕の隣にいる時雨が「あれ?あの子、1年生だよね…」と呟く。
「そうなんだ」
僕らは、高校2年生だ。あの子は、1年生でもう誕生日が過ぎたらしい。
「さて、僕らは教室に戻るぞ」
「待って、俺は保健室に寄ってから行くから…1時間目の授業が終わるまでには戻るから」
そう言った時雨は髪飾りを外し、保健室へと駆け出した。僕は胸騒ぎがしたが、気にせずに教室に戻った。