炎は水とともに散り行く
1時間目の授業が終わっても、時雨は教室に戻って来ない。時雨は「1時間目の授業が終わるまでには戻るから」と言っていたはずだ。僕は不安になり、保健室に向かった。
保健室のドアを開けると、1人の女性が僕の腕を引っ張り、僕を白い光に包む。
光が消えると、目の前に女神様がいる。女神様は、珍しく焦った顔をしていた。
「紅蓮さん。早く時雨さんの元へ…」
「何でだ?」と僕が聞く前に、女神様が、僕の手を引き時雨の元へと向かう。
連れていかれた場所は、地下室。女神様は、手のひらに光を灯した。光が地下室を照らす。
女神様は、天界から地上へ、または地上から天界へ死神を送ることが出来る。しかし、それが自由に出来るのは女神様が天界にいる時だけ。女神様が地上にいる時は、本人が女神様の近くにいないと使えないのだ。
しかも、女神様にも移動する距離に限度がある。遠くへ移動しようと思うと、その移動する光を2回使わなければならなかった。
僕は、目を凝らして辺りを見渡す。床に、誰かが倒れている。誰なのか分かった。嫌な予感が募っていく。
「…時雨」
床に時雨が倒れているのだ。僕は時雨に近づき、揺さぶってみる。しかし、反応は無い。
「時雨、時雨…!」
時雨に声をかけながら、揺さぶるが反応は無い。
「おい、時雨!目を覚ませよ!!」
さっきよりも強い声で言う。それでも、時雨は目を覚まさない。僕は、時雨の息を確認する。
時雨は、息をしていなかった。僕は、その場に座り込む。
「おい、嘘…だろ?」
僕は、初めて涙を流した。
何で涙が出るんだよ…僕は、感情なんて余り顔に出なかったはずなのに…あぁ、そうか。時雨は、それほど僕にとって大事な人だったんだ…
その瞬間、体に激痛が走る。何が起こったのか分からない。ただ傷口から溢れている僕の血を見ているだけしか出来なかった。女神様が驚いている。女神様の視線の先には、時雨の父だった子が立っていた。
僕が最期に見たのは、時雨の父だった子の愉快そうな笑みだった。ここで、僕は息絶えた。