バリトンボイスで囁いて
地に足をつけて歩いていたのかさえ記憶にない

気がつけば、クリニックの前にいた

携帯を開いて名前を指でなぞる

ー神崎 弘人ー

ん?、神崎?あれ、八嶋じゃなかったっけ?

確か、千佳さんは八嶋なはず
どういうこと?

ふわふわした夢心地の私は、瞬時にその意味を理解
出来ずにいた

千佳さんに聞けばそれくらい教えてくれるよね

クリニックのドアを元気一杯に押し開けた

「おはようございます!」

奥から顔をひょこっと出した桜木先生は安堵の
表情に切り替わった

「おはよう。元気になったみたいだね」
「あ、すみません。ご心配かけまして、、、」
「いや、、、、当然だからね」

意味深な間を作った先生の内情は計れないけど、
スタッフを大切にしてくれるのは伝わる

本当にいい先生だと思う


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