たとえば君が居なくても。


殺風景になったお皿を手に口を開こうとした時、タイミング良くお母さんの声がした。

「あら望君いらっしゃい。今日は少し奮発してお寿司なの!良ければ食べていって。」

目を輝かせる彼は誰よりも一番早く席についた。

こんな調子だから怒る暇もない。

「…あんたの腹は底無しか。ちゃんと私の分も残しておいてよね。」

食べる量が多いのに、締まった体で腹が立つ。

私も部活にでも入ってれば好きなモノを我慢せずにすんでたかも。

「ちゃんとその分運動して消耗するからね。桃は食べない方がいいんじゃない?」

クスリと鼻で笑う彼の頭に平手打ちをお見舞いしたいところだけど、この間お母さんの目の前でやったら私がこっぴどく叱られたので、やめておこう…。

「美味しいって言ってたし、クッキーで決まりかな。」

それまでにちゃんとした形にしないとね・・・!

次の日に恵里菜と一緒に包装用の袋を買いに行く約束をした。

「桃ー、色違いのものでそんなに悩まないでよ~。」

「そんな事言ったって・・・だって選べないんだもん!」

迷っている私の手から一つ箱を奪い取ると、彼女は言った。

「じゃあ私が決めてあげる。前にも言ったけど、大事なのは中身なんだから。」

「まぁ、もし振られたら慰めてあげる。」

と笑って受け取る私にからかうように一言足した。


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