忘れられないひと【完結】
「山野くん、うちの娘が君と食事をしたいみたいなんだ」
突然の専務からの申し入れ
その意味がわからない歳ではない
社会人も10年以上になれば、聞かない話でもない
本来ならサラリーマンであれば断るなんてしないだろう
特に彼女がいない今ならば
所謂、出世のチャンスだ
「申し訳ありません、大事な人がいます
その人以外は考えられません」
紗也と別れてから1年が経った
それでも、俺の心の中に居るのはずっと一人だけだ
会いたいと想うのも
抱きたいと想うのも
「お付き合いしてる人はいないと聞いたが」
「はい、永遠に僕の片想いです」
「ほぉー、山野君ほどの人にそこまで想われている彼女はすごいね
きっと、凄く素敵な女性なのだろうね」
専務は感心する様に自慢の髭を撫でていた
話のわからない人ではない
断ったから、とどうにかなるような仕事もしていない
「いつか会わせてくれよ」
「えぇ、そんな日が来れば」
残念ながら、そんな日は来ないだろう
それでも俺には紗也だけなんだ
あの日からずっと、俺には紗也しかいない
我ながら痛い男だと思う
先日、日本へ戻ることが決まった
今までにも会議などで日本に戻っていたが、今回は完全に俺の仕事の拠点がニューヨークから日本に移るのだ