忘れられないひと【完結】
「部長………」
「あ、高原………」
「おめでとうございます」
「あ、あぁ、ありがとな」
元木が去った後に高原からも声を掛けられ
元木の声が大きかったからか他の皆にもしっかり聞かれていた様だ
あれよあれよと周りに人が集まり「おめでとう」と言われる
部長になった時にも言われたが、今日の方が何倍も嬉しい
皆からの祝福を受けて、一段落した時に専務に会いに行った
今日は会議のあとは外出予定は無かったはずだ
「専務、宜しいでしょうか?」
「山野くんか、どうぞ」
失礼します、とドアを開ければニコニコ顔の専務
「待ってたよ」と言いながら俺の手を取り「おめでとう」と両手で握手をした
「どうして………」
「君はきっと来てくれると思っていたからね」
「いや、でも………」
「ははっ!君の噂は秘書たちから聞いたよ」
「あぁ、そうでしたか
専務、この度結婚することになりました」
「あぁ、おめでとう
君の大切な人とだね」
「はい」
「おめでとう、いい顔してるね
秘書たちが残念がっていたよ
堕ちない男がとうとう堕ちたって」
堕ちないって………
でも、堕ちたのではない
いや、堕ちた事には間違いないのか…………
「彼女がやっと、堕ちてくれたんです
必死だったのは、僕なんですよ」
専務は、あははっと大きな口を開けて笑った
そして、自慢の髭を何度も撫でていた