ブライダルベールの花籠を君に【短編集】
6
君は知らないだろうけど。

俺も、空から見ることしか出来なかったけど。


君が記憶を無くした、と言った時に、心配してくれる人が沢山いたんだよ。

響也、忍ちゃん、おばさんに、俺のお母さん。


何週間後ぶりに会った君はもう、俺の事なんて何も覚えていなくて。覚悟していたはずなのにやはり悲しくなって。

だけど、それと同じくらいに嬉しかったんだ。

俺がいなくなっても、周りの人達は彩のこと心配してくれる。俺がいなくても支えてくれる。

このまま君から。いずれ、全員から俺の記憶がなくなったとしても、後悔はしないんじゃないかと。


大丈夫だよ。


彩の前に現れて、彩の前からいなくなって、また仙人っぽい爺さんがいる所に戻って。

その時の彩はもう、泣いてなくて。いや、泣いていても前を向いていて。


最初は彩を守ろうとしていた人たちも、今は彩を支えようとしている。


だから、大丈夫。

俺がいなくても。


ああ。

この世界は限りなく優しい。
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