叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい

『確か、ここだったような。』




医局付近で美咲を探していたところに、田中から連絡を受けてリネン室に向かう梶田。




いつかの嫌な記憶が蘇る。




あの時はドアが開いて、美咲が出てきたところで倒れた。




ドアに手を掛ける。




今度は出てこない。ということはいない……?




ガチャッ





暗くて中がよく見えない。
壁に手をやると、蛍光灯のスイッチがある。




ポチッ





「あ……梶田先生。」





ほんのり顔が赤いのは、気のせい……?




『美咲ちゃん、部屋に戻ろうか?』




いつも通り優しく、刺激しないように声をかける梶田。
小児患者の精神状態は大人とは違って、常に不安定。
だからこそ、梶田はいつも変わらない調子で対応している。





『美咲ちゃん?立てれる?』





一度こちらを見たものの、下を向いたままの美咲。




すぐにしゃがまず、ゆっくりと近づいて……。





『あれ?美咲ちゃん?』





美咲の呼吸がどこかしらいつもと違う。
過呼吸があると聞いてはいたが、それとは違う……。





顔を覗き込んで、両肩に手を当てる。





『あ…』





思わず声に出してしまうくらい、美咲の体は熱かった。





『美咲ちゃん、部屋に戻ろうね。』





無闇に不安にさせないように、熱があるとあえて言わず、部屋に戻ろうと誘う。






『はぁはぁ、やっぱりここだった!?』





ちょうどその頃、息を切らして入ってきたのは田中に小児科のナースが数名。




もしかしたら、と皆が思い、田中の後ろを着いてきた。




『はぁはぁ、ここだったか。』





数名のナースの後ろからかき分けて入ってきたのは、藤堂だった。





『美咲っ!大丈夫か?




部屋に戻るぞ。』





梶田とは対照的に美咲に近づく。
そんな藤堂を梶田が制止して耳打ちをする。




(かなりの熱がある。)




頷くとゆっくり近づいて美咲の顔を確認する。





かなりの高熱があるのか、茹でタコのような顔の赤さに、その場の全員が驚く。





『部屋に行くからな。』




藤堂がそういいながら美咲の体を抱え込もうとすると…、





突然美咲の目が開き





「やめてっ!部屋に連れていかないで!」





この弱った体のどこにこんな力があるのか、大声で叫びながら、体をくねらせる。




『どうした?部屋が嫌か?』




藤堂が尋ねると、コクリと頷く。そしてそのまま目を閉じた。





廊下に用意されていたストレッチャーに仰向きに寝かす。
外傷はないか、頭部から足の先まで触りながら確認する。
腹部に痛みはないか、圧迫するが反応はない。





『熱だけだな。急いで処置室に運ぼう。』






その場にいた一番上の田中が指示を出し、急いで小児科の処置室に運んだ。
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