叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
風邪
あぁ…熱が下がったり上がったり。
しんどい……。
ウイルス性の風邪って、やっかい…
風邪をバカにしたらいけないね。
この部屋に来て三日。結局一時帰宅はなくしてもらったけど、私は元の病室にはまだ戻ってない。
熱が下がってから戻るみたい。
あの子のところにはまだ行きたくないけど、ナースステーションの隣っていうのも辛い。
いつもこの部屋は空いていて、重症な子しか来ない。ここ最近はだれも入っていなかった。
私が重症ではないことは間違いない。きっとまた、逃走すると思われてるのか、監視を込めてここにいるんだろう…な。
そんなことを思いながら、ふとナースステーションに目をやると、山田さんが忙しそうにしている。
ああいう人をバリバリに働くって言うんだよね、きっと。
私はまだバイトをしたことがないから、働くってことがよく分からない。
高校には既にバイトしてる子もいるみたいだけど…私もいつかそんな高校生活を送りたいな。と、熱くなった頭で考える。
トントン
ん?
ナースステーションを見ると、さっきまで忙しくしていた山田さんが、ナースステーションとつながるドアをノックして、中に入ってきた。
『みーさきちゃんっ。』
「……やまだ…さん。」
頭で考えてばかりで、言葉を口から発するのは今日で初めてだったので、口の中が渇いて声がうまく出なかった。
『氷枕替えて、熱を測り直そうか。』
うん、と頷く。
なかなか動けないでいる私の頭を上げて、氷枕を替えようとする山田さん。
『うわっ!汗がすごいなぁ。』
そう?自分では分からない。
『汗が出ることはいいことなんだよ。
でも、すぐに着替えようね。』
そういうとすぐにナースステーションとの窓に、ブラインドを下げてくれて、部屋が見えないようにしてくれた。
『服脱ごうね。』
いつものことだけど、こうやって人に服を脱がしてもらうのって恥ずかしい。
下着はワイヤーの入ってないスポーツブラだし、パンティだって地味な色のものばかり。
「女の子なのにな……。」
つい、口から思っていたことが飛び出た。
『ん?何が?』
「い、いや……あの。
下着が地味だし、スポブラだし……。女の子なのに、なんかなって……。」
『えー!?美咲ちゃんがそんなことを言うようになるなんてっ!
私が老けるわけだ。』
と山田さんのケラケラ笑う声は、私の悩みがちっぽけなのかと思ってしまうほどの勢いがある。
『美咲ちゃんって、好きな人とかいるの?』
「えっ!?」
『だって、女の子だから可愛くしたいって思ってるんだし。それって好きな人がいるんだよね?』
「う……」
図星。
でも、そう言われて頭に浮かんだのは、何となく私の周りにいる若い先生たちばかり。
ん?
なぜか藤堂先生まで頭に浮かぶ。
いや、ないない。
『誰々?』
着替えをテキパキとしてくれながらも、追求される。
「……好きな人って言うか、憧れるっていうか。
で、でも、現実的じゃないから……。」
『誰々?』
一歩も引かない。
「今頭の中に浮かんだのは、私の身近にいる……若い先生たちくらい……」
うわぁっ!言っちゃった!
変な子って思われる。
『そうなの、それで誰々!?』
山田さん、結構しつこく聞いてくる人だね。こういうことを話したことなかったから、とても意外。
だけど、嫌ではない。
「梶田先生とか、神山先生とか……。」
あえて藤堂先生とは言わない。なぜ頭に浮かんだかも分からないし。
『うんうん、みんなイケメンよねー!
私は田中先生みたいな人もいいけどねっ!』
「えっ!?田中先生って、奥さんいるよ。」
『分かってるわよー。見た目でいうと誰がタイプかってこと。
あ、でもね美咲ちゃんっ!?』
と、そのあと聞いたその言葉に、現実的な恋ではないことは分かってはいたけど、とてつもなくショックを受けて、そのあとに山田さんと何を会話したのかすら分からなかった。