叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
『こんばんは。』
まぶしっ!
手で光を遮ると、目の前に立っているのは警察官だった。
えっ!?嘘でしょ?
そしてもう一人も私の前に。
私、なんか悪いことした…?
このまま逮捕されるとか……?
声が出ずにいると、
『君、橋田美咲ちゃんかな?』
名前まで聞かれてる……。
いよいよ連れてかれるっ!?
なんて思っていると、
『お父さんが、探してるよ。』
そう言われてなぜここで、警察官に声を掛けられたのか、わかった。
寒いし、裸足だからとかなんとか言われてパトカーの中に座らされた。
『ほら、毛布。』
背中にそっと掛けられた毛布。
毛布の温かみを感じて、ようやく外の寒さにすっかり体が冷え切っていたことに気づいた。
なぜ裸足でこんなところまで来てしまったのか…。
私に何があったのかは、目の前の警察官も知っているみたいだけど、私は聞かれることに素直に答えていくうち、パパに対する気持ち、死んだママに対する気持ちも全て吐き出していた。
気づくと辺りは私の知っている街並みが現れた。
帰ってこれたことの安堵と、心のうちを全て話してしまって心がほぐれたのか…大粒の涙が頬に伝って、素手で拭いとれない涙は、私のズボンにぼたぼたとこぼれていた。
手元にポケットティッシュを渡されるけど、私はそれを受け取れる余裕もなく、隣にいる警察官にちゃっかり涙を拭いてもらって、ようやく落ち着きを取り戻した。
『美咲ちゃん…一人でたくさんのことを抱えて、とても辛かったんだね。
それなのに全て話してくれて、ありがとう。このことは、私たちからお父さんに話してもいいのかな?自分で話す?』
パパよりと同じくらいの歳の警察官に優しく聞かれる。
自分で話したいけど、うまく言えない…。
それに、このこと話してて、過呼吸になったらどうしよう…。
パパの顔も見る余裕がない……。
「……あの……。話して……もらえますか?」
『うん、分かったよ。
全て話すから、その後にはちゃんとお父さんと向き合うんだよ?』
「分かりました……。」
そうだよね。いずれにせよ、パパと向き合わないといけないよね……。
今は理解できないけど、パパの好きになった人のことも受け入れないといけない。
『美咲ちゃんはみんなが幸せになるには、どうしたらいいと思う?』
「えっ?」
『今はまだ、お父さんの気持ちを受け止めることはできないかもしれない。理解することも。
だけど、お父さんの本当の気持ちを知ることはできるよね。
だから、一度お父さんと向き合って、話してごらん。
そしたら、いつかみんなが幸せになれる日が来るから。』
本当にそんな日が来るのかな。
ただこの人の話し方は、とても説得力がある。
『ほら、着いたよ。』
そう言われて前を見れば、家の前でパパや田中先生、藤堂先生だけじゃなくて、ありさもいる。
近所のおばさんたちも捜してくれたのかな、みんな家の前にいて、パパが何度も頭を下げている。
きっとお礼を言ってるのかな。
近所の人たちは私が見つかったことを確認して、安心したのか、家の中に戻っていく。
もしかしたら、私の気持ちも考えて。
『ほら、このスリッパを履こうか。』
警察官から渡された真っ白なスリッパに足を入れる。
いたっ!
足の裏がスリッパに当たると痛い。
開けられたパトカーのドアから降りる。
ドアに手をかけながら立ち上がると、
痛い……。
でも、これも自業自得なんだよね。自分からしたことだし。
ゆっくり、足を引きずりながらパパに近づく。
ものすごい疲れた顔したパパ……。
言わなきゃ。
「……ごめんなさい。」
もうこれ以上見れない……。
顔を伏したと同時に、再び涙がこぼれ落ちる。
『パパこそ、すまなかった。』
そうじゃない……パパはきっと何も悪くない。
言いたいけど、今は顔を上げられない。
『お父さん、美咲ちゃんの足の裏はかなり血が出てますので、中で手当てをした方がいいかと思います。
その間に、少し私からお話を。』
そう言われて外にいた田中先生も藤堂先生もありさもみんなで家の中に入った。