叶わぬ恋…それでもあなたを見ていたい
『おはよう。美咲ちゃん、起きてー。』
その声で目を覚ますと、いつもいるはずの藤堂先生ではなく、珍しく田中先生が来ていた。
「……おは……よ……う、ござ……いま……す。」
一晩中ほとんど起きていたからか、眠い上に喉がカラカラになって言葉がうまく出ない。
『ん?どうした?顔色悪いね。』
額に大きな手を当てられる。
『熱は下がってるけど、どうした?吐きそう?』
顔面に近づいた田中先生の目は、私が逸らさないようにとらえられていた。
「…いえ。吐きそうではないです。
喉が……渇いて。」
そういうと棚にある水を看護師さんが取って、蓋を開けて渡してくれた。
体を起こして、ゆっくり飲む。
突然飲むと、再びお腹が下って、恐ろしいことになることは勉強済み。
『美咲ちゃん…。どこか体調悪いよね?』
これを見ていた田中先生は、私のことをお見通しだったように確信した言葉に、ギクリと動きが止まってしまった。
何事もなかったのかのように過ごしてみる。
『本当は?』
私の持っていた水を取り上げ、椅子に座って目線を合わせてくる。
『体は素直だからね。』
そう言って指した先を見ると、気づかない間に、私は手をお腹に当てていた。
『今正直に言わないと、藤堂先生の前でかばってあげれないよ。』
う……うまいことを言ってきた。
正直に言わないと、味方についてくれないってことか。
昨日のことを言ってしまったら、どうなるのか…。
怒られる?まだ間に合う……?
そんなことを考えていると、
『おはよ。』
突然部屋に入ってくるなり、ベッドにやってきた藤堂先生。
『あ〜あ、すぐ言わないから。もう藤堂先生が来ちゃったよ。』
田中先生が言うと、
『何ですか?どうしましたか?』
興味津々の藤堂先生が、鋭い視線を私に送ってくる。
『たぶん…いや、間違いなく、体調がよくないね。』
うつむく私に田中先生が藤堂先生に話している。
味方にはついてくれないみたい……。
『何々ー?』
田中先生が立ち上がり、藤堂先生に椅子を譲る。
椅子に座って私の両頬を手で挟む。
『どうした?昨日は検査で何もなかったけど。
熱もないみたいだし。』
よくあることだけど、顔を挟まれ目を見つめられると、顔が真っ赤になっていくことがわかる。
今は恥ずかしがってる場合ではない。
昨日のことをなんて言ったらいいのか…。言わないべきか……。
『何かあるのは間違いないな?』
もう一度顔を挟まれたまま聞かれる。
思い切って頷く。
『何があったの?』
両手を離され、再びうつむく。
「……ごめんなさい。」
『いや、謝る前に、何があったのか教えて。』
「……ごめんなさい。」
謝るだけで許してもらえないことはわかっているけど、それでも謝り続ける。
『それは分かったから。
何があった?』
うつむいたまま、頭を撫でられると、目の奥から溢れ出た涙が布団に落ちていく。
昨夜、トイレで過ごした苦しみを思い出すと、言葉よりも涙が先に出てくる。